第4回 会社に、文化が宿るとき――4つの資本が循環する話

コラム

サントリーはなぜ、コンサートホールを建てたのか。 資生堂はなぜ、美術館を持つのか。

お酒を売り、化粧品を売ることが本業であれば、利益だけを追えばホールも美術館も必要ない。それでも彼らはつくり、育て、何十年も続けている。

元資生堂社長・福原義春さんの著書『文化資本の経営』を読んだとき、私はようやくその理由を言葉にできた気がした。

「経済資本は行き詰まり、文化資本が主役になる」

これは住宅業界でも、もう始まっている。

会社が持つ4つの資本

経済の世界では、人や会社が持つ資本を「文化資本・関係資本・経済資本」の3つで整理することが多い。

ただ今回は、その起点にある会社や店舗の底力まで含めて考えたいので、人的資本を加えて4つの資本として見てみたい。

人的資本(底力)を高め
才覚・美意識・観察力・継続力・世界観

金融資本 を増やし、運用(実行余力)
売上・利益・投資できる力

関係資本 を高めて(外部との縁)
人との信頼・地域との接点・紹介・応援

文化資本 が宿る(あとから宿るもの)
美意識・世界観・地域にとっての意味
「なくなったら悲しい」存在感

そしてこの流れは、一方向ではない。 文化資本が宿ると、関係資本と金融資本を再び呼び込む。 資本は転化し、循環する。

大谷翔平に見る、資本の転化

わかりやすい例として、大谷翔平の話をしたい。

野球選手としての圧倒的な技術と人格——これが人的資本だ。その底力が、世界中のファンやチームメイト、スポンサーとの関係を生んだ。これが関係資本だ。関係資本は契約金という金融資本に転化した。

そして今、大谷翔平は次の段階に入りつつある。

「大谷のいる時代」という文化だ。

彼のプレーを見るために球場に足を運ぶ。彼の言葉に子供たちが影響を受ける。彼の存在が、野球というスポーツの意味を変えている。これがもはや「比較できない」領域——文化資本が宿った状態だ。

文化資本は、設計図どおりにはできない

量をこなすことで質が上がる。ヘーゲルの弁証法にも通じる、古くから知られた原理だ。

ただ私が14年の現場で感じてきたのは、質が上がった後にもう一度量に向き合うことで、さらに深い次元に入れるということだ。

量(数多くやる)

質が高まる

もう一度、量をこなす

さらなる深みへ

文化資本は、この往復を何年も続けた先に、気づくと宿っているものだ。

狙ってつくるものではない。 関係と実践の重なりの中で、パッチワークのように縫い合わされていく。(近年、経営学において注目度高いエフェクチュエーション理論)

グリーンショップで言えばこうだ。毎日の来店対応を丁寧にやる(量)。接客の質が上がる(質)。さらに多くの人が集まる(量)。やがて「あの店は別格だ」という空気が生まれる。

量には、もう一つの意味がある。

量をこなすほど、出会いの可能性が指数関数的に広がるということだ。

大手企業は資本力で量をつくる。でも中小の工務店には、それは難しい。だからこそ、ショップという場、文化という場が重要になる。

毎日来店する人、初めて来た人、たまたま通りかかった人。その一人ひとりとの偶然の出会いが、予期しない縁を生み、やがて文化資本へと転化していく。

これを「偶有性」と呼ぶ。狙って起こせるものではなく、場があることで自然に生まれるものだ。

ショップは、偶有性を生む装置なのだ。 大手には資本がある。中小には、この「偶然の縁」を育てる場がある。

住宅会社に、文化が宿るとき

文化資本に到達する住宅会社の状態を、私はこう整理している。

A:場が地域の拠点になる(1〜3年)
グリーンショップに人が来る。 住宅とは関係なく、植物を買いに来る。 スタッフと話す。また来る。また来る。
まだ「集客」の段階かもしれない。 でも、この「また来る」が積み重なることで、 その場所は地域の人にとって「あるのが当たり前」の場所になっていく。

B:地域の暮らし方が変わる(3〜10年)
お客様が「庭のある暮らし」を始める。 植物を部屋に置く。外に出て土を触る。 季節の変化を、以前より少し意識するようになる。
そしてその暮らし方を、友人に話す。SNSに投稿する。 「あの店で教えてもらった」という言葉と一緒に。
会社の世界観が、お客様を通じて地域にじわじわと広がっていく。 これが「暮らし方の文化」だ。

C:街並みが変わる(10〜20年)
その会社が関わった家が、地域に増えていく。 外構と庭が美しく整えられた家が並ぶエリアに、独特の空気が生まれる。
そのひとつの事例はこちらです。
「あのあたりの家、なんかいいよね」 「あの通り、歩くだけで気持ちいい」そんな声が、自然に聞こえてくるようになる。一軒の家を超えて、街の風景になっている。 これが文化資本の最終形だ。

この3つは折り重なって育つ。 A があるから B が生まれ、B が積み重なって C になる。 設計図どおりにはいかない。でも、方向は決められる。

あなたの会社は今、AとBとCのどこにいますか。


このシリーズの他の記事
第1回:その住宅反響(受注)は、なぜ来たのか
第2回:なぜ植物の店が、住宅相談につながるのか
第3回:住宅会社が比較される前に選ばれる理由


真崎 健(まさき たけし)
株式会社エスティナ/株式会社Birth&Rebirth
代表取締役
ビレッジ戦略提唱者