第15回 なぜ、母の日が住宅受注の入口になるのか—住宅会社が運営するグリーン雑貨店4店舗に見る、行動変容の設計
住宅会社にとって、母の日は一見、関係のない日に見える。
家を建てる日ではない。リフォームを考える日でもない。庭の相談をする日でもない。
けれど、グリーン雑貨店を持つ住宅会社にとっては、母の日は一年の中でも特別な意味を持つ。普段は住宅会社のイベントに来ない人が、花を買いに来る。家づくりを考えていない人が、母への贈り物を探しに来る。リフォーム相談にはまだ早い人が、季節のギフトをきっかけに店を訪れる。
つまり母の日は、住宅会社が「まだ顧客ではない人」と自然につながれる、数少ない機会でもある。
四月末から五月にかけて、最高売上を記録するグリーン雑貨店は少なくない。お店のオープンからその日まで積み重ねてきた、日々の活動の成果が表れる場——それが母の日でもある。
ここで見落としてはいけないのは、この機会を活かしているのは「花屋」ではなく「住宅会社」だという点だ。グリーン雑貨店を持つ住宅会社は、地域のF1・F2層と、年に何度も自然な形で接点を持っている。母の日はその接点の中でも、最も濃い一日になる。
接点があれば、その後に情報を届けられる。情報が届けば、顧客の行動が変わっていく。母の日を「ただのイベント」ではなく「設計対象」として扱う発想が、ビレッジ戦略の根っこにある。
母への贈り物の届け先は、必ずしも近所とは限らない。遠くに住む母へ贈りたいというニーズも当然ある中で、地域密着の店舗でありながら配送まで対応している店舗もある。地元に根を張りながら、商圏の外まで手を伸ばす——その両立も、今回見ていく工夫のひとつだ。
今回は、母の日をきっかけに顧客の行動を変えた4社のグリーン雑貨店を見ていきたい。
同じ理論、ちがう戦術
4社の母の日施策を見ていくと、表面的なやり方はまったく違う。だが、どの店も共通してやっていることがある。それは「一度の購買」を、「次の行動」につなげる仕掛けを、母の日という一点に意図的に埋め込んでいることだ。
グリーン雑貨店A「予約設計型」
母の日の売上は、当日だけで決まるわけではない。
グリーン雑貨店Aが他の3店と最も違うのは、母の日当日に向けて、1ヶ月以上前から顧客の行動を設計していた点だ。予約受付は3月末から開始。4月下旬には母の日向け商品の販売もスタートし、母の日前日・当日を、生花ブーケ・アレンジメントの「受け取り日」として、あらかじめ指定していた。
これは単なる早期販売ではない。顧客に「その日に買いに来てもらう」のではなく、先に「その日に来る理由」をつくっている。予約という行為によって、来店は偶然ではなく、予定された行動になる。
実際、母の日当日は朝からお客様が絶えず訪れ、アレンジメントや花束を中心に、ドライフラワーのスワッグやリース、外苗まで幅広い商品が次々と動いた。今年初めて並べた鉢アレンジにも手が伸びた。母の日前日・当日の2日間で、5月の期間売上の半分以上が集中している。店に人が集まったのは、たまたまではない。1ヶ月以上前から、その日の来店が設計されていたからだ。
さらにこの店は、母の日当日で終わらせていない。母の日後の約1週間にわたって「遅れてごめんね」需要への対応を続け、一定の売上を積み上げている。母の日に間に合わなかった顧客の行動を、後ろにずらして受け止める設計だ。
グリーン雑貨店B「次回来店型」
グリーン雑貨店Bの特徴は、母の日当日の体験を、次回来店という行動に直接つなげている点だ。期間中はポイントアップに加え、購入した顧客全員に、次回使える割引チケットを配布した。チケットを手渡すという行為は、顧客の中に「次にもう一度来る」という行動の予約を作る。割引という条件がついているため、その行動は単なる希望ではなく、実行する理由を伴った行動になる。
母の日前日は昼頃から来客が増え、店頭の紫陽花が減っていく中で、他のギフト商品にも動きが広がっていった。中心商品だけでなく周辺の商品にも手が伸びたのは、ギフト提案の幅を広げていたからだ。
また、母の日前日・当日の2日間限定で、知人による生花販売を実施し、配送にも対応した。近隣の顧客だけでなく、遠方の母親へ贈りたい顧客の行動も拾いに行っている。
結果として、母の日前日・当日の売上は高い水準を記録し、当日は来客者数がレジ通過数を上回った。この差は、ギフト探しや相談のために立ち寄った顧客が一定数いたことを示しており、その場での購買に至らなかった接点も含めて、来店という行動自体は広く生まれていたと見ることができる。
グリーン雑貨店C「ギフト完成型」
グリーン雑貨店Cは、母の日前から当日まで約10日間のフェアを開催し、母の日ギフトとしてそのまま渡せる売り場づくりを前面に打ち出した。店内には、贈り物として選びやすい商品が並び、見ているだけでもワクワクするような空間がつくられていた。
ここでの行動変容の仕掛けは、単に商品を並べることではない。顧客が「何を贈ればいいか迷う」「どう組み合わせればいいかわからない」「贈り物として整えるのが面倒だ」と感じる部分を、店側が先回りして引き受けている点にある。
母の日ギフトを贈るという行動には、いくつもの小さなハードルがある。商品を選ぶ。相手に合うか考える。見栄えを整える。持ち帰りやすくする。そして、贈り物として成立する状態に仕上げる。
フェア初日からラッピングの依頼が多く入り、メイン商品の紫陽花を中心に動きがあった。母の日前日は午後から来店が増え、ラッピングの依頼もさらに増加。当日には紫陽花がよく動き、数量限定のフラワーバッグや花束にも手が伸びた。
つまり、ラッピングは単なる包装ではない。顧客の迷いを減らし、購買から贈答までの距離を縮めるための設計である。フェア初日からまとまった売上を記録し、母の日当日も高い売上を維持した。ギフトを完成品として提案したことが、来店した顧客を購買行動へ移しやすくしたと考えられる。
グリーン雑貨店D「滞在時間型」
グリーン雑貨店Dは、母の日イベントをゴールデンウィーク終盤から開始し、その時点からすでにまとまった売上を記録していた。母の日前日には期間中最も高い日販を記録し、当日も高い水準を維持している。
この店の特徴は、購買そのものより「店に滞在する」という行動を増やす工夫にある。母の日の贈り物に、お客様一人ひとりの気持ちを添えられるよう、メッセージカードは一つひとつ丁寧に手作りされた。知人によるフレッシュドリンクの販売もあり、ベンチを設置したテラスでは、買い物の前後にゆっくり過ごす人の姿があった。これらは購買を直接後押しするものではなく、顧客が店に留まる時間そのものを増やす仕掛けだ。
滞在時間が増えれば、店内を見て回る機会も増え、購買の機会も自然に広がる。実際、この店では生花・苗・紫陽花など複数カテゴリーにわたって売上がまんべんなく動いており、特定の商品に依存しない形で売上がつくられている。これは「売れる分だけ仕入れ、仕入れた分は売り切る」というロスを意識した仕入れ方針とも整合している。
接点は、なぜ受注につながるのか
4社のやり方は、それぞれ違う。
予約を先に取る店。 次回使えるチケットを渡す店。 ラッピングという手間を引き受ける店。 店に長く滞在したくなる空間をつくる店。
表面的には、どれも母の日の売上を伸ばすための工夫に見える。もちろん、それも大切だ。実際、母の日はグリーン雑貨店にとって、一年の中でも大きな売上をつくりやすい時期である。
しかし、住宅会社が運営するグリーン雑貨店にとって、本当に重要なのは売上だけではない。
母の日に来店した人と、どう関係をつくるか。 一度買ってくれた人に、どうもう一度来てもらうか。 ギフトを買いに来た人に、どう店の存在を覚えてもらうか。 そして、その人の暮らしの中に、どう自然に入り込んでいくか。
ここに、グリーン雑貨店を住宅会社が持つ意味がある。
住宅会社にとって難しいのは、地域の生活者と日常的に接点を持つことだ。家づくりやリフォームの相談は、人生の中で何度も起きるものではない。完成見学会や相談会だけで接点をつくろうとしても、どうしても「家を考えている人」に限られてしまう。
一方で、グリーン雑貨店には、まだ家を建てる予定がない人も来る。リフォームを考えていない人も来る。庭の相談をするつもりがない人も、母の日のギフトを探しに来る。
この「まだ顧客ではない人」と自然につながれることが、住宅会社にとって大きい。住宅会社は、家を建てたい人を探し続けている。けれど、本当に強い会社は、家を建てたい人が現れる前から、地域の人と関係を持っている。
ここで、一つの目安を共有しておきたい。
国土交通省の住宅着工統計によると、注文住宅(持家)の年間着工数は、世帯数に対しておおよそ200〜300世帯に1棟というのが全国的な目安になる。地域差はあるが、大きく外れる数字ではない。
たとえば年間の来店・来場数が500組前後ある店舗であれば、単純計算で年間1〜2件程度の新築需要が、その顧客層の中に眠っている計算になる。会員数や来場規模が大きくなれば、この数字はそのまま比例して増えていく。
そして、グリーン雑貨店の主な客層はF1・F2層であり、これは住宅購入や建て替えの意思決定に深く関わる層でもある。実際に、計算上の目安を上回るペースで新築受注につながっている店舗があるのは、この顧客層の重なりが背景にあると考えられる。ビレッジ戦略が成立する理屈は、ここにもある。実際、加盟店からは「グリーン雑貨店を起点に新築受注につながった」という報告が、年間を通じて複数件届いている。単なる花屋の売上ではなく、住宅事業への波及が実際に起きている。
母の日に生まれた接点は、その場ですぐ住宅相談になるわけではない。むしろ、すぐには何も起きないことの方が多い。けれど、店に来た記憶が残る。スタッフと話した印象が残る。次回チケットをきっかけに、もう一度来店する。季節のイベントでまた顔を合わせる。
そうして少しずつ、店と地域の人との関係が積み重なっていく。
ビレッジ戦略では、この積み重なりを「関係資本」と捉えている。広告のように一度出して終わるものではなく、日々の来店、会話、購買、イベント参加によって、少しずつ蓄積されていく資産である。
そして、関係資本が積み重なった場所では、偶然の相談が生まれやすくなる。
たまたま店に来た人が、庭の話をする。 たまたま近所の施工事例を見て、外構に興味を持つ。 たまたまスタッフとの会話の中で、リフォームの悩みを話す。 たまたまイベントに来た家族が、その会社の雰囲気を知る。
一見すると偶然に見える。 けれど、その偶然は、何もない場所では起きない。
日常的に人が来る場所があり、スタッフとの会話があり、暮らしに関わる商品があり、季節ごとの来店理由がある。そういう土台があるから、偶然の相談が生まれる。
母の日の工夫は、だから「今月の売上」をつくるためだけのものではない。何ヶ月後か、何年後かに、ガーデン、リフォーム、新築の相談として返ってくるかもしれない接点を、今のうちに増やしておく行為だ。
花を売っているだけの店と、関係資本を積み上げている店の違いは、母の日当日には見えにくい。
けれど3年後、5年後に、地域の中でどれだけ相談される会社になっているかを見たとき、その差ははっきり表れてくる。
ただし、イベントを真似るだけでは成果は出ない
ここまで4社の工夫を見てきたが、同じ仕組みをそのまま導入しても、同じように機能するとは限らない。ビレッジ戦略には、向き不向きがある。
ひとつは、前年のデータが手元にない店舗だ。今回の4社はいずれも、過去の母の日の実績や来店傾向をある程度把握した上で、今年の施策を組んでいる。比較対象がなければ、何が効いたのか、何が効かなかったのかを振り返ることができず、毎年が「やってみた」だけで終わってしまう。
もうひとつは、仕入れ判断が店長など一人に依存している店舗だ。母の日のような繁忙期は、品揃えのバランスと仕入れ量の精度が結果を左右する。判断が一人の感覚だけに頼っている状態では、その人が休んだり異動したりした瞬間に、再現性が失われてしまう。
最後は、会員管理やPOS運用が手薄な店舗だ。次回チケットを配っても、誰が使ったか、どれくらいの人が再来店したかを追えなければ、施策が効いたのかどうかを検証できない。母の日当日の売上だけを見て満足してしまい、本来の狙いである「関係資本の蓄積」が、見えないまま埋もれてしまう。
こうした土台が整っていない状態で、他社の施策だけを真似ても、表面的なイベントごとで終わってしまう可能性が高い。逆に言えば、これらの土台を整えることそのものが、ビレッジ戦略に取り組む準備段階だとも言える。
まとめ
4社の戦術は違う。けれど、目指している先は同じだ。
母の日という一日を、「今月の売上」で終わらせず、地域との関係資本を積み上げる機会として設計すること。
住宅会社にとって、本当に難しいのは、家を建てたい人を集めることだけではない。まだ家づくりを考えていない人、まだ庭の相談をするつもりがない人、まだリフォームの必要性に気づいていない人と、日常の中でどう接点を持つかである。
グリーン雑貨店は、そのための入口になる。
母の日に来た人が、すぐに住宅相談をするわけではない。けれど、店を知る。スタッフを知る。季節ごとに訪れる理由ができる。そうして関係が積み重なった先に、ある日、庭や住まいの相談が生まれる。
母の日は、花が売れる日ではない。
花を売ることが目的なのではない。 花をきっかけに、地域との関係を積み上げることが目的なのだ。
その積み重ねの先にあるのが、未来の住宅相談である。
実際にその積み重ねが住宅事業の受注にまで結びついている現場を、ビレッジ戦略本部では視察セミナーの形でご案内している。
7月23日視察セミナーに参加する https://forms.gle/62o7Qu8cwP1WgtSe8
出典:GREEN PRODUCE JOURNAL[2026年5月度速報](株式会社Birth&Rebirth)
本記事内の店舗データは、上記資料をもとに、概要レベルに加工して掲載しています。
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真崎 健(まさき たけし)
株式会社エスティナ/株式会社Birth&Rebirth
代表取締役
ビレッジ戦略提唱者