第8回 なぜ、性能を説明しても選ばれないのか――住宅会社が最後に選ばれる理由
住宅の営業をしていると、こんな瞬間がある。
断熱性能。
耐震等級。
気密性能。
どれも大切だ。 だから、こちらも一生懸命に説明する。
でも、お客様の目がどこか遠くなることがある。
なぜか。
性能が不要だからではない。 お客様が最後に選んでいるものが、性能の差だけではないからだ。
私は、住宅会社が本当に選ばれる理由は、もっと別のところにあると思っている。
「この会社の感じが好きだ」 「この人たちと家をつくりたい」 「なんとなく、ここがいい」
そういう、言葉になりきらない感覚だ。
性能は土台だ。でも、決め手にはなりにくい
性能を磨くことはとても大事だ。
断熱も、耐震も、気密も、快適な暮らしを支える土台になる。 ここを軽く見ていいわけではない。
ただ、問題は別にある。
どの会社も性能を磨き始めると、性能は差別化要因ではなくなっていく。 高断熱、高気密、高耐震。どの会社も同じ言葉を使い始め、数字も近づいていく。
すると何が起きるか。
お客様から見ると、違いが見えなくなる。そして比較しやすいものだけが残る。最後には、価格や条件の競争になりやすい。
これが、機能だけで競った先に起きることだ。
性能は、選ばれるための条件にはなる。でも、選ばれる理由にはなりにくい。
コトラーは、この変化を先に整理していた
マーケティングの大家、フィリップ・コトラーは、企業が何で選ばれるかの軸が変わってきたことを整理している。
マーケティング1.0:商品中心
良い商品をつくれば売れる
マーケティング2.0:顧客中心
機能だけでなく、感情や体験を満たす
マーケティング3.0:人間中心
価値観、世界観、社会への姿勢で選ばれる
マーケティング4.0:デジタル
オンラインとオフラインの接点を設計する
マーケティング5.0:人間×テクノロジー
テクノロジーを使って、人間的な満足を深める
この流れを住宅業界に当てはめると、かなりわかりやすい。
工務店2.0:顧客満足を高める時代
工務店3.0:価値観で選ばれる時代
工務店4.0:デジタル接点を設計する時代
工務店5.0:感情価値と精神価値をリアルとデジタルの両方で育てる時代
ビレッジ戦略が見ているのは、まさに3.0以降の世界だ。
山形県 M建設では、すでにそのことが起きていた
真崎と出会う前から、山形県のM建設では、ある不思議なことが起きていた。
庭と家をセットで提案した区画だけが、なぜか先に売れていくのだ。
お客様は、性能を比較してその区画を選んだわけではない。価格だけで選んだわけでもない。
返ってきたのは、こんな言葉だった。
「あそこだけ雰囲気が違う」 「あのエリア、なんかいいよね」
これが重要だ。
人は、機能を見ているようで、実はその奥にある空気を感じ取っている。庭があり、緑があり、暮らしの気配があり、その会社らしい世界観が立ち上がっている。その違いが、言葉になる前に伝わっていた。
M社長は当時、その理由をうまく説明できなかった。 でも確かに、何かが起きていた。
ビレッジ戦略との出会いは、その「何か」に名前をつける旅でもあった。
住宅で最後に選ばれるのは、世界観だ
車で考えるとわかりやすい。
2.0:運転する喜びや所有する満足
3.0:そのメーカーの思想や世界観への共感
住宅も同じだ。
2.0:丁寧な対応、美しいデザイン、快適な暮らし
3.0:「この会社の世界観が好き」という共感
もちろん、1.0がいらないわけではない。性能は必要だ。でも、最後に指名される理由になるのは、3.0の領域だ。
「この会社の考え方が好きだ」 「この人たちのつくる暮らしに共感する」 「ここなら任せたい」
その感覚が生まれたとき、比較表を開く前に名前が浮かぶ。これが、これまで何度も書いてきた「純粋想起」だ。
ビレッジ戦略は、最初からこの領域を育てようとしている。
グリーンショップは、性能を超えた価値を体験させる場だった
なぜ植物の店が住宅相談につながるのか。 なぜ「なんとなく好き」が受注につながるのか。
その答えは、ここにもある。
グリーンショップは、住宅の性能を説明する場所ではない。でも、暮らしの空気を体験できる場所ではある。
植物。香り。季節の変化。店の空気。スタッフの温度。そこに流れている考え方。
そうしたものを通じて、お客様は会社の世界観を先に感じ取っている。
つまりグリーンショップは、商品を売る場である前に、「この会社はどんな暮らしを大切にしているか」を体験してもらう場だったのだ。
性能を説明する前に、すでに「好きだな」が始まっている。
ここに、ビレッジ戦略の本質がある。
これからの工務店は、何を磨くべきか
性能を磨くことをやめろ、という話ではない。
性能は土台だ。その上に、感情的価値を積む。さらにその上に、精神的価値を積む。
↓
感情的価値:心地よさ、美しさ、安心感、接客、居場所
↓
精神的価値:会社の思想、地域との関わり、どんな暮らしを良いとするかという価値観
この三層が重なったとき、会社は「比較される存在」から「選ばれる存在」へ変わっていく。
性能は、信頼の土台になる。 でも、世界観は、指名の理由になる。
あなたの会社は今、何で選ばれていますか。 そしてこれから、何で選ばれたいですか。
このシリーズの他の記事
第1回:その住宅反響(受注)は、なぜ来たのか
第2回:なぜ植物の店が、住宅相談につながるのか
第3回:住宅会社が比較される前に選ばれる理由
第4回:会社に、文化が宿るとき――4つの資本が循環する話
第5回:ゆるいつながりが、住宅受注を連れてくる
第6回:探索と進化――動きながら住宅受注の勝ち筋をつくる
第7回:会社の底力は、どう育ち始めるのか――人的資本という、見えない根っこ
真崎 健(まさき たけし)
株式会社エスティナ/株式会社Birth&Rebirth
代表取締役
ビレッジ戦略提唱者