第16回 だれでもわかる住宅会社向けービレッジ戦略(実質第0回)

住宅会社は、家を建てたい人が現れる前に、どこで出会うのか。
住宅会社が、植物を売っている。
はじめて聞く人にとっては、少し不思議に感じるかもしれない。
家を建てる会社が、なぜ観葉植物を売るのか。 外構やリフォームを提案する会社が、なぜグリーン雑貨店を持つのか。 工務店が、なぜ花や鉢や雑貨を並べた店を運営するのか。
花屋になりたいわけではない。 雑貨屋に転業したいわけでもない。 住宅会社が本業を見失ったわけでもない。
むしろ逆だ。
住宅会社が、地域の人に選ばれ続けるために、植物という入口を持ち始めている。 それが、ビレッジ戦略である。
この連載では、第1回から第15回まで、ビレッジ戦略の背景・理論・実例・数字を見てきた。今回は、その入口として、誰でもわかるように全体像を整理してみたい。
第1章 住宅会社が直面している問題
住宅会社にとって、いま最も難しいことは何だろうか。

性能を上げること、デザインを磨くこと、価格を調整すること、広告を出すこと、SNSを更新すること。もちろん、どれも大切だ。
しかし、本当に難しいのは、その前にある。
そもそも、地域の人と接点を持つことが難しくなっている。
家づくりやリフォームの相談は、毎日起きるものではない。人生の中で何度も発生するものでもない。多くの人にとって、住宅会社と接点を持つのは、家を建てたい、リフォームしたい、外構を整えたいと思ったときだけだ。
つまり住宅会社は、基本的に「必要になったときに探される存在」になりやすい。
けれど、その時点ではすでに比較が始まっている。ポータルサイトで比較される。Instagramで比較される。価格で、性能で、施工事例で比較される。
高性能、自然素材、デザイン住宅、地域密着、丁寧な家づくり——どれも大切だが、どの会社も言っている。
では、比較される前に選ばれる会社は、何が違うのか。
それは、家を建てたい人が現れる前から、地域の人との関係を持っていることだ。
第2章 グリーン雑貨店は、接点をつくる装置である
ここで、グリーン雑貨店が出てくる。

植物、鉢、雑貨、花、季節のギフト、ワークショップ、イベント。これらは一見すると、住宅事業とは直接関係がないように見える。
しかし、ビレッジ戦略では、これらを単なる商品とは見ていない。
地域の人が、自然に来店する理由。スタッフと会話する理由。会社の空気に触れる理由。もう一度訪れる理由。家づくりの前から、その会社を知る理由。
つまり、グリーン雑貨店は「接点をつくる装置」である。
住宅展示場や完成見学会には、家に関心がある人が来る。一方で、グリーン雑貨店には、まだ家づくりを考えていない人も来る。
母の日のギフトを探しに来る人。観葉植物を買いに来る人。子どもとイベントに参加する人。友人とふらっと立ち寄る人。
この人たちは、今日すぐ住宅相談をするわけではない。けれど、地域の生活者である。そして、住宅購入や建て替え、リフォーム、庭づくりの意思決定に、将来的に関わる可能性のある人たちでもある。
しかも、その「偶然の相談」は、偶然には生まれない。
日常的に人が来る場所があり、スタッフとの会話があり、暮らしに関わる商品があり、季節ごとの来店理由がある。そういう土台があるから、たまたま来た人が庭の話をし、たまたまイベントに来た家族がその会社の雰囲気を知り、たまたまスタッフとの会話の中でリフォームの悩みを話す。
ビレッジ戦略は、この「たまたま」を意図的に設計している。
第3章 関係資本という考え方
ビレッジ戦略を理解するうえで、大切な言葉がある。

関係資本である。
関係資本とは、簡単に言えば、地域の人との関係の蓄積だ。
一度来店した。スタッフと少し話した。植物を買った。イベントに参加した。季節ごとに立ち寄った。SNSで店の投稿を見た。家族で来た。庭の話をした。
こうした一つひとつの接点は、その場では小さく見える。しかし、積み重なると、会社にとっての資産になる。
広告は、出稿を止めれば消える。値引きは、一度きりのきっかけになりやすい。キャンペーンは、終われば忘れられる。
けれど、関係は残る。
「あの店、感じがよかった」「あの会社、よく地域で見かける」「あそこなら相談しやすそう」——こうした印象は、すぐには数字にならない。だが、いざ住まいの困りごとが生まれたとき、相談先を思い出すきっかけになる。
ビレッジ戦略は、短期の集客施策ではない。地域との関係資本を積み上げるための、長期の経営戦略である。
第4章 実際に、住宅受注につながっているのか
ここまで読むと、こう思う人もいるかもしれない。

理屈はわかる。でも、本当に住宅事業につながるのか。
この連載では、第10回から第12回にかけて、山形県の工務店の実例を取り上げた。グリーン雑貨店を持つことで地域の人との接点が増え、店に来た人がガーデンや外構の相談をするようになり、リフォームや新築への波及も生まれた。
重要なのは、これが一度のイベントで起きた成果ではないということだ。
日々の来店、季節の売場、ワークショップ、スタッフとの会話、SNSでの発信——そうした積み重ねの先に、住宅やリフォーム、ガーデンの相談が生まれている。
国土交通省の住宅着工統計によると、注文住宅の年間着工数は全国でおおよそ200〜300世帯に1棟という目安になる。つまり、年間500組が来店する店舗であれば、その顧客層の中に年間1〜2件の新築需要が眠っている計算になる。グリーン雑貨店のメイン客層はF1・F2層であり、住宅購入の意思決定に深く関わる層でもある。
実際、加盟店からは「グリーン雑貨店を起点に新築受注につながった」という報告が、年間を通じて複数件届いている。単なる花屋の売上ではなく、住宅事業への波及が実際に起きている。
第5章 ただし、誰にでも向いているわけではない
ビレッジ戦略は、万能ではない。
植物を売れば、住宅が売れるわけではない。雑貨店をつくれば、すぐに反響が増えるわけでもない。
そもそも、この戦略の本質は「真似しにくい」点にある。
見た目は真似できる。植物を置き、雑貨を並べ、イベントを開く。表面的には同じようなことができる。しかし、重要なのは地域との関係が積み上がっているかどうかだ。
関係資本は、時間をかけて積み上がる。3年、5年と重ねた会社には、後から真似しようとしても追いつきにくい蓄積が生まれる。これは、単なる店舗ノウハウではない。会社の文化、スタッフの接客、地域との関係、日々の運営、データの蓄積が一体になった戦略である。
そして、向いていない会社もある。
短期的な売上だけを求める会社。店舗運営を片手間で考える会社。データを残さず、毎年の施策を振り返らない会社。スタッフとの関係づくりを軽く見る会社。こうした状態では、グリーン雑貨店は単なる物販店で終わってしまう。
ビレッジ戦略で大切なのは、店を持つことではない。店を通じて、地域との関係を設計することである。
その意味で、ビレッジ戦略は「植物を売る戦略」ではない。地域に、住宅会社の入口をつくる戦略である。
まとめ
住宅会社が植物を売っている。
一見すると、不思議な取り組みに見える。けれど、その本質は物販ではない。
地域の人と出会う。何度も来てもらう。スタッフを知ってもらう。会社の空気を感じてもらう。暮らしの相談が生まれる土台をつくる。
その積み重ねが、やがて住宅、リフォーム、ガーデンの相談につながっていく。
家を建てたい人を探すだけではなく、家を建てたい人が現れる前から、地域の人と関係を持つ。
それが、ビレッジ戦略である。
花を売ることが目的なのではない。 花をきっかけに、地域との関係を積み上げることが目的なのだ。
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真崎 健(まさき たけし)
株式会社エスティナ/株式会社Birth&Rebirth
代表取締役
ビレッジ戦略提唱者