第11回 なぜ、植物を売る場所から住宅相談が生まれるのか――山形県の工務店事例(2)

コラム

前回、住宅会社がグリーン雑貨店を開くと、植物を買いに来た人が庭の相談をしてくる、完成見学会では集まらない人数が来る、採用にも効果がある、という話を書いた。

「面白い話だけど、たまたまじゃないの?」

そう思った方も多いと思う。

今回は、「なぜそれが起きるのか」を構造として整理したい。

偶然ではなく、仕組みとして説明できる。

家を建てる決断は、突然やってくるように見えて、実は長い助走がある

住宅購入の検討期間は、人によって数ヶ月で決まることもあれば、数年かけて考えることもある。

でも「検討」と呼ぶのは、すでに「建てよう」と決めてから情報収集を始めた段階の話だ。

その前段階——「いつかは建てたいな」「そろそろ考えようかな」という、まだ検討とも言えない段階——が、実は何年も続いている。

そしてその段階で、特定の会社のことを「なんか好きだな」と思っていたとしたら。

いざ「建てよう」と決意したとき、最初に浮かぶのはその会社の名前だ。

グリーン雑貨店は、この「検討前の段階」に接点を持てる、数少ない装置だ。

なぜ「植物を売る場所」が接点になるのか

住宅展示場は、「建てようと決めた人」しか来ない。完成見学会も同じだ。

でも、「植物が好き」「庭が気になる」「なんかおしゃれそう」という動機で来られる場所は、検討前の人も来る。だから、完成見学会より圧倒的に多くの人が集まる。

しかも、来るたびに小さな接触が積み重なる。

植物を買う。季節のイベントに参加する。店員と少し話す。また来る。

この繰り返しの中で、「この会社、なんかいいな」という感覚が育っていく。

これを心理学では「単純接触効果」と呼ぶ。何度も会う人や、何度も訪れる場所に、少しずつ親しみを感じるようになる現象だ。接触の回数が増えるほど、好意が高まるというシンプルな原理だ。

住宅会社にとって、これは広告では再現しにくい。広告は見られて終わる。でも、実際に来て、買って、また来てという体験の積み重ねは、感情記憶として残る。

世界観は、営業トークより先に伝わる

もう一つ重要なことがある。

グリーン雑貨店という場には、その会社の「美意識」が宿っている。

どんな植物を選ぶか。什器の素材は何か。スタッフの接客の温度はどうか。季節ごとにどんな変化があるか。

これらすべてが、「この会社はどんな暮らしを大切にしているのか」を、言葉なしに伝える。

住宅の性能を説明される前に、「この会社の感じが好きだ」という感覚が先に生まれる。

スーツを着た営業マンとの商談ではなく、ラフな雰囲気のショップでの会話。お客様がリラックスして話せる環境そのものが、競合との違いになる。

この順番が大切だ。「好き」が先にあると、商談の質が変わる。比較検討の土俵に乗る前に、すでに「ここにしようかな」という気持ちがある状態で話が始まる。

植物目的の来店者が、外構・庭の潜在顧客と重なる

グリーン雑貨店に来る人の多くは、「植物」「庭」「暮らしを豊かにしたい」という動機で来ている。

この層は、外構・庭工事を検討する層と重なりやすい。

「植物が好き」な人は、「庭を整えたい」という欲求を持ちやすい。「暮らしを丁寧にしたい」という価値観の人は、住まいへの投資に積極的なことが多い。

時間とお金に余裕のある層ほど、この傾向は強い。退職後の世代が、競合と比較せずに「ここでやってもらいたい」と決めて相談に来るのは、偶然ではない。

なぜ採用にも効果が出るのか

前回紹介した「採用への効果」も、同じ構造で説明できる。

「コテコテの工務店」という言葉に、心理的なハードルを感じる若い人は多い。住宅業界の営業や現場という仕事に、なんとなく距離を感じている。

でも、グリーン雑貨店があると、入り口が変わる。

植物が好き。おしゃれな空間が好き。そういう動機で会社に興味を持った人が、結果的に住宅の仕事に関わるようになる。

これは、住宅会社の求人広告では出せない入り口だ。

ただし、植物を置くだけでは機能しない

ここが重要なポイントだ。

「じゃあ、うちも植物を並べればいい」という話ではない。

世界観がなければ、ただの植物屋になる。導線がなければ、住宅の相談にはつながらない。接客の温度がなければ、一度来ても戻ってこない。

グリーン雑貨店が「場」として機能するためには、運営の思想が必要だ。

何を置くか。誰が接客するか。どんなイベントをするか。住宅事業とどうつなぐか。どんな客層を育てたいのか。

これらを設計しないと、「植物を売っているが、住宅には全然つながらない」という状態になる。

では、実際にどれくらいの成果が出るのか

ここまでで「なぜ起きるのか」の構造は理解できたと思う。

次の疑問は、「実際にどれくらいの数字になるのか」だ。

年間の来客数はどれくらいか。グリーン雑貨の売上はどうなるか。庭・外構の反響は何件生まれるか。新築やリフォームへの波及はどう起きるか。

そして、初期投資はどれくらいかかるのか。どんな会社に向いて、どんな会社には向かないのか。

次の有料記事では、実際に取り組む工務店の実数を公開する。

「面白い話」ではなく、「経営判断の材料」として読んでほしい。


このシリーズの他の記事
第1回:その住宅反響(受注)は、なぜ来たのか
第2回:なぜ植物の店が、住宅相談につながるのか
第3回:住宅会社が比較される前に選ばれる理由
第4回:会社に、文化が宿るとき――4つの資本が循環する話
第5回:ゆるいつながりが、住宅受注を連れてくる
第6回:探索と進化――動きながら住宅受注の勝ち筋をつくる
第7回:会社の底力は、どう育ち始めるのか――人的資本という、見えない根っこ
第8回:なぜ、性能を説明しても選ばれないのか――住宅会社が最後に選ばれる理由
第9回:GoogleMapの上に、場を宿す
第10回:住宅会社が植物を売り始めた理由――山形県の工務店事例(1)


真崎 健(まさき たけし)
株式会社エスティナ/株式会社Birth&Rebirth
代表取締役
ビレッジ戦略提唱者