第10回 住宅会社が植物を売り始めた理由――山形県の工務店事例(1)

コラム

住宅会社が植物を売っている。

そう聞くと、多くの人は少し不思議な顔をする。

「植物と住宅、関係あるんですか?」 「副業ですか?」 「儲かるんですか?」

もっともな疑問だ。実際、私もはじめてこの戦略を提唱したとき、同じ反応を受けた。

でも、やってみた工務店から返ってきた報告は、想定を超えていた。

庭の相談に来た人が、家のことまで話してくれた

山形県のある工務店が、グリーン雑貨店を開いてから3年目を迎える。

そこで働く営業担当者から、こんな話を聞いた。

「ショップに来てくださるお客様は、もともと植物が好きな方が多いんです。でも、世間話をしているうちに、『実は庭をどうにかしたくて』『そろそろ家のことも考えていて』という話に自然となるんですよね」

植物を売っているのに、住宅の話になる。

それだけではない。

「退職されたご夫婦が、よくショップに来てくださるんです。時間にも気持ちにも余裕があって、『このお店でやってもらいたい』と決めて庭の相談をしてくださる。だから、競合の見積もりと比較されることもなく、お任せいただけるんです」

競合と比較されにくい。これは住宅業界ではかなり珍しいことだ。

「売る場所」ではなく、「集まる場所」

住宅を売ろうとすると、お客様は逃げる。

展示場に行けば、営業マンが待っている。資料請求をすれば、電話がかかってくる。だから多くの人は、「まだ検討段階じゃないから」と言って、住宅会社に近づかない。

グリーン雑貨店は、その逆の発想だ。

植物を見に来る。気に入ったものを買う。季節のイベントに参加する。ただぶらりと立ち寄る。

そこに「住宅を検討していますか?」という空気は、ない。

だからこそ、人が来る。そして、来るたびに「この会社、なんかいいな」という感覚が積み重なっていく。

思いがけない場所から、縁がつながる

この工務店では、もっと面白いことも起きている。

地域の企業の食堂で、昼休みの時間だけグリーン雑貨を出張販売する取り組みを始めた。

雑貨を売りながら、リフォームや庭づくりのチラシをそっと置いておく。すると、植物を買ってくれる社員もいれば、「実は自宅のリフォームを考えていて」と相談してくる人もいる。

ある企業では、現場を担当していた営業部長の自宅をリフォームしたことがきっかけで、部長から社長へ話が伝わり、その会社全体からの相談が増えていったという。

「グリーン雑貨を売る」という小さな接点から、企業ぐるみの大きな縁が生まれることがある。

完成見学会では集まらない人数が、ショップには集まる

社長自身が「想定外に大きかった」と語るのが、集客力の差だ。

住宅の完成見学会を開いても、集まる人数には限界がある。家を建てる予定がない人は、わざわざ見学会には来ない。

でも、グリーン雑貨店の周年イベントには、2日間で400名以上が来場した。子ども向けの昆虫イベントには、100名を超える親子が集まった。

「完成内覧会では、なかなかこれほど人は集まらない」と社長は言う。

植物のイベントなら、子育て世代も、検討段階にない人も、気軽に足を運べる。その中に、将来家を建てる人や、情報を集めている人が確実に混ざっている。

人を集める力そのものが、住宅単体のイベントとは比較にならない。

採用にも、想定外の効果があった

さらに社長が驚いたのは、採用への影響だった。

「コテコテの工務店」というイメージのままでは、若い人材はなかなか集まらない。でも、グリーン雑貨店があることで、「ここで働きたい」という人が増えた。

植物が好きな20代・30代のスタッフが、これまでに4名入社した。そのうち2名は、住宅営業の仕事に転換している。

元花屋で働いていた人や、もともとショップのお客様だった人が、「植物」という共通の関心を通じて建設業界に入ってくる。そして、高いモチベーションで働いている。

住宅の営業経験がなくても、その会社の世界観に惹かれて入社した人は、定着率も意欲も違う。

「検討していない人」こそ、来てほしい

住宅業界が抱える構造的な問題がある。

家を建てる、リフォームするという決断は、人生で何度もあることではない。ほとんどの人は、検討し始めてから数ヶ月〜数年のうちに決める。

でも、その「検討し始める前」の段階から、特定の会社のことを好きになっていたらどうだろう。

比較する前に、すでに「あそこがいいな」という感覚がある。

マーケティングではこれを「純粋想起」と呼ぶ。グリーン雑貨店はその「純粋想起」を育てる場だ。

植物を売りながら、暮らしの世界観を伝えながら、家を建てる前の段階から「好きだな」という感覚を積み重ねていく。

では、なぜその変化が起きるのか

ここまで読んで、「なんとなくわかった気がする」という方もいるかもしれない。

でも、「本当に再現性があるのか」「うちでも同じことが起きるのか」という疑問はまだ残るはずだ。

植物を置けば、どこでも同じことが起きるわけではない。

次回は、「なぜグリーンショップから住宅相談が生まれるのか」を、構造として整理する。偶然ではなく、仕組みとして説明できる。

そして、その仕組みが実際にどれくらいの来客・売上・受注につながったのか。そこまで見ると、この取り組みが単なる副業ではなく、住宅会社の経営戦略であることが見えてくる。


このシリーズの他の記事
第1回:その住宅反響(受注)は、なぜ来たのか
第2回:なぜ植物の店が、住宅相談につながるのか
第3回:住宅会社が比較される前に選ばれる理由
第4回:会社に、文化が宿るとき――4つの資本が循環する話
第5回:ゆるいつながりが、住宅受注を連れてくる
第6回:探索と進化――動きながら住宅受注の勝ち筋をつくる
第7回:会社の底力は、どう育ち始めるのか――人的資本という、見えない根っこ
第8回:なぜ、性能を説明しても選ばれないのか――住宅会社が最後に選ばれる理由
第9回:GoogleMapの上に、場を宿す


真崎 健(まさき たけし)
株式会社エスティナ/株式会社Birth&Rebirth
代表取締役
ビレッジ戦略提唱者