第7回 会社の底力は、どう育ち始めるのか――人的資本という、見えない根っこ

コラム

グリーンショップを開いた二つの会社がある。

片方は3年後、地域になくてはならない場所になっていた。 もう片方は、1年で閉めた。

初期投資は、ほぼ同じだった。 経営者も、どちらも真剣だった。

では、何が違ったのか。

私は23年この業界を見てきて、ひとつの答えに辿り着いた。 場の成否は、経営者が「誰を立たせるか」「誰に任せるか」で大きく変わる、ということだ。

どんな商品を置くか。 誰を店頭に立たせるか。 どんな空気を、その場に流すか。 何を「自分たちらしい」とするか。

その判断の積み重ねが、やがて店の世界観になる。 そして、その世界観を支えている見えない力を、私は「底力」と呼んでいる。

底力とは何か

第4回で会社が持つ4つの資本の話をした。

人的資本(底力)
 ↓
金融資本(実行余力)
 ↓
関係資本(外部との縁)
 ↓
文化資本(あとから宿るもの)

この中で、最初にくるのが人的資本だ。

底力とは、特別な才能のことではない。 日々の選択の積み重ねであり、会社の空気を決める見えない根っこだ。

スタッフを誰にするか。 どんな商品を並べるか。 本業とどうつなげるか。 お客様に何を伝えるか。

こうした一つひとつの判断が、場の温度をつくる。 その温度が人を引き寄せ、関係を育て、やがて文化へと転化していく。

まず、この3つから始める

底力を育てるために、最初から全部を揃える必要はない。

まずこの3つを決めるだけで、場は変わり始める。

① 誰に来てほしいかを決める
「どんなお客様に来てほしいか」をまず自分の中で決める。 全員に来てほしいは、誰にも刺さらない。 「こういう暮らしが好きな人に来てほしい」という輪郭が、場の空気を決める。

② 何を「自分たちらしい」とするかを決める
商品の選び方、スタッフの接し方、棚の並べ方。 「これはうちらしい」「これはちがう」という基準を持つことが、世界観の始まりだ。
センスは、生まれつきの才能ではない。 好きなものに時間をかけて触れ続ける中で、少しずつ育つ判断力だ。

③ その空気を守る人を決める
経営者がいつも店にいることはできない。 「自分の代わりにこの場を守れる人は誰か」を決め、その人を育てることが、底力の拡張になる。
スタッフが「社長のやりたいことがわかる」と言える会社は強い。 スタッフが「この会社が何を大切にしているか」を自分の言葉で語れる会社は、さらに強い。

底力は、どうやって育つのか

底力は、生まれつきのものではない。

毎日お客様と向き合う。 なぜこの人は来てくれたのかを考える。 また向き合う。

その繰り返しの中で、観察力も、美意識も育っていく。

量をこなすことで質が上がり、質が上がると、もう一度量に向き合える。 底力も、その往復の中で深まっていく。

ただし、一つだけ条件がある。

「自分の細胞は喜んでいるか」と、問い続けることだ。

効率だけで判断しない。 自分が本当に好きだと思えるものを選び続ける。 その積み重ねが、やがて場の世界観になる。

スタッフは、経営者の鏡だ

底力は、経営者一人で完結しない。

経営者の美意識や思想は、スタッフを通じてお客様に届く。 その翻訳の精度が、場の温度を決める。

だから重要なのは、知識や技術だけで人を選ぶことではない。 自社の思想を理解し、その思想を自分の役割の中で表現できる人を選び、育てることだ。

閉めた方の会社の話に戻れば、 店頭に立ったのは本業の総務部門から来たスタッフだった。 品揃えは、世界観よりも在庫の都合で決まった。

「素敵な暮らしの店」を目指しながら、「百均ショップ」と「素敵な暮らし」の間で、どちらにもなれなかった。

残念ながら、その会社は今年、本業も閉じることになった。

この話を書くのは、誰かを責めるためではない。 23年この業界を見てきた者として、同じことを繰り返してほしくないからだ。

底力は、今日から育てられる

底力は、遠い話ではない。

今日、お客様の顔を見たときに感じたこと。 スタッフが言った何気ない一言。 棚の前で立ち止まったお客様の視線。

そこに、次の判断のヒントがある。

「自分の細胞は喜んでいるか」

この問いを習慣にするだけで、底力は少しずつ育っていく。

あなたの会社の底力は、今どの段階にありますか。

次回は、この人的資本を出発点にして、4つの資本がどう循環していくのかを整理したい。


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真崎 健(まさき たけし)
株式会社エスティナ/株式会社Birth&Rebirth
代表取締役
ビレッジ戦略提唱者