第13回 なぜ今、「知っている工務店」から家を買いたいのか――住宅業界の構造変化とビレッジ戦略

コラム

第10回から第12回まで、山形県の工務店の実例を見てきた。
グリーン雑貨店が、単なる物販店ではなく、住宅・ガーデン・リフォーム・採用へ波及していく。その構造を、できるだけ数字で見てきた。

ただ、ここで一度、少し視点を変えたい。
そもそも、なぜ今、工務店にビレッジ戦略が必要なのか。
なぜ、住宅会社がグリーン雑貨店を持つことに意味があるのか。なぜ、完成見学会や広告だけではなく、日常的に人が集まる場を持つ必要があるのか。

今回は、その背景にある住宅業界の変化について書いてみたい。

住宅会社は、値上げせざるを得ない

今、住宅会社の経営環境はかなり厳しい。
資材価格は上がっている。職人不足も続いている。物流費も、人件費も、下がる気配はない。そして、住宅ローン金利は上昇局面に入っている。

日本銀行が公表する企業物価指数を見ても、企業間で取引されるモノの価格は高い水準にある。国土交通省の建設工事費デフレーターでも、建設工事にかかる費用水準の上昇が確認できる。また、住宅金融支援機構が公表する金利情報を見ても、かつての超低金利を前提にした資金計画だけでは考えにくい局面に入っている。

工務店側から見れば、原価が上がっている以上、住宅価格を上げなければ事業が成立しない。しかし、お客様側から見れば、住宅価格が上がり、金利も上がれば、同じ年収・同じ自己資金では買える家が小さくなる。

つまり、住宅会社は「高く売らなければならない」のに、お客様は「前より買いにくくなっている」。
このねじれが、今の住宅業界で起きている大きな構造変化だと思う。

「20〜40代女性、F1・F2層を集めればいい」という時代の終わり

これまで住宅業界には、ある程度わかりやすい集客の型があった。
完成見学会を開く。ルームツアーをはじめとするSNSやポータルサイトで反響を集める。家づくりに関心のある20代〜40代の女性に向けて、かわいい写真や暮らしのイメージを届ける。

もちろん、今でもそれ自体が不要になったわけではない。ただ、それだけで十分だった時代は終わりつつある。
なぜなら、住宅単価が上がったことで、そもそも「買える人」の層が変わってきているからだ。
今までと同じように広く集客しても、最終的に予算が合わない。土地と建物を合わせた総額を見た瞬間に、検討から外れてしまう。そんなケースが増えている会社も多いはずだ。

これから地域工務店が向き合わなければならないのは、より世帯年収の高い層であり、住宅に対して「安さ」だけではなく「自分たちらしさ」や「価値観との一致」を求める層である。

ここに、従来型の住宅集客とのズレがある。

住宅を買う合理性は、2つに分かれていく

世帯年収の高い層を捉えようとするとき、住宅会社が向き合うのは、単純に「お金を持っている人」ではない。その中でも、何を基準に住宅を選ぶのかという「合理性の質」が異なる人たちだ。

ここで大事なのは、「合理的に選ぶ」と言った時の合理性は、ひとつではないということだ。

社会学者マックス・ヴェーバーは、人間の行為を考える時に、「目的合理的な行為」と「価値合理的な行為」を分けて考えた。

ものすごく簡単に言えば、目的合理性とは、目的に対して最も効率のよい手段を選ぶことだ。

住宅でいえば、できるだけ性能のいい家を、できるだけ安く買いたいという選び方である。

価格、断熱性能、耐震性能、保証、設備仕様を比較して、最も条件のいい会社を選ぶ。これは、とても自然な選び方だ。

ただ、この軸で勝負すると、住宅会社は常に比較競争の中に置かれる。他社より安いか。他社より性能が高いか。他社より標準仕様がいいか。

この競争は、強い。そして、疲弊しやすい。

一方で、もうひとつの合理性がある。

それが、価値合理性である。

これは、単に損得や効率だけで選ぶのではなく、自分が大切にしている価値観に合っているかどうかで選ぶという考え方だ。

この会社の考え方が好き。この人たちのつくる空気感が好き。この会社なら、自分たちらしい暮らしを一緒につくってくれそう。ここに頼むことが、自分たちの生き方に合っている気がする。

こういう理由で選ぶことも、当人にとっては十分に合理的である。

たとえば、同じ性能で、少し安い会社があったとしても、「でも、あの会社に頼みたい」と思うことがある。
それは、非合理なのではない。価格だけでは測れない価値を、その人が重視しているということだ。
これからの住宅会社にとって重要なのは、この価値合理性で選ぶ人たちと、どう出会うかである。

なぜなら、住宅価格が上がれば上がるほど、お客様は失敗したくないと思うからだ。そして、失敗したくないからこそ、単なる価格や性能だけでなく、「この会社を信じられるか」「この人たちに任せたいと思えるか」を強く見るようになる。

ビレッジ戦略が向き合っているのは、まさにこの層である。

「安いから買う」のではなく、「この会社が好きだから相談する」。
「性能がいいから選ぶ」のではなく、「この人たちなら、自分たちらしい暮らしを分かってくれそうだから選ぶ」。
そういう価値合理的な選ばれ方を、住宅会社が地域の中でどうつくっていくか。

そこに、ビレッジ戦略の意味がある。

人は、知らない人より「知っている人」から買いたい

家は、高い買い物だ。
しかも、買って終わりではない。建てている途中も関係が続く。住んでからも、点検や修理やリフォームで関係が続く。
だからこそ、お客様にとって一番怖いのは「この会社を信じていいのか分からない」という状態だ。

知らない会社に問い合わせる。初めて営業担当者と会う。数回打ち合わせをして、数千万円の契約を決める。冷静に考えると、これはかなり大きな心理的負担である。

では、逆にどういう相手なら安心できるのか。
それは、前から知っている人だ。

何度も顔を合わせたことがある。店の雰囲気を知っている。スタッフの人柄を知っている。会社が地域でどんな振る舞いをしているかを知っている。そういう相手には、いきなり出会った会社とは違う安心感がある。

「知らない人より、知っている人から買いたい」

これは、住宅に限らず、人間にとってとても自然な感覚だと思う。

友達になるには、時間を共有するしかない。これはわたしたちが子供の頃から経験していることだ。

では、どうすれば「知っている人」になれるのか。答えは、とてもシンプルだ。一緒に時間を過ごすことだ。

人は、一度会っただけでは、なかなか相手を信頼できない。でも、何度も会うと、少しずつ相手のことが分かってくる。どんな表情をする人なのか。どんな言葉を使う人なのか。忙しい時に、どんな対応をする人なのか。お客様ではない人に、どんな態度を取る人なのか。

何度も時間を共有すると、良いところも、少し抜けたところも、自然と見えてくる。それが、安心感になる。
友達とは、特別な営業トークでなるものではない。長い時間を一緒に過ごすことで、気づいたらなっているものだ。

工務店とお客様の関係も、実はそれに近い。

完成見学会で一度会っただけの会社と、何度も通っている店を運営している会社。どちらに相談しやすいか。答えは、かなり明確だと思う。

だから、住宅会社には「日常の接点」が必要になる

ここで、ビレッジ戦略の意味が見えてくる。
ビレッジ戦略は、住宅を売る前に、地域との日常的な接点をつくる考え方である。グリーン雑貨店は、そのための一つの形だ。

住宅展示場や完成見学会は、基本的に「家を検討している人」が来る場所である。一方、グリーン雑貨店は、まだ家を検討していない人も来る場所である。
植物を見に来る。雑貨を買いに来る。イベントに参加する。子どもと一緒に立ち寄る。贈り物を探しに来る。
その時点では、住宅の相談は起きないかもしれない。でも、何度も来る。顔を合わせる。会社の存在を知る。スタッフと話す。店の空気感を好きになる。
その積み重ねが、数年後に効いてくる。
家を建てようか。庭を直そうか。リフォームを考えようか。そうなった時に、最初に思い出してもらえる会社になる。

これが、ビレッジ戦略の本質だと思う。

なぜ「グリーン」なのか

では、なぜその接点がグリーン雑貨店なのか。
理由の一つは、植物が暮らしの価値観に近いからだ。

植物を選ぶ人は、ただモノを買っているわけではない。部屋に少し余白をつくりたい。暮らしを整えたい。季節を感じたい。自分の家を、少し好きになりたい。そういう気持ちで植物を選んでいる。

これは、住宅や庭づくりととても相性がいい。家を建てることも、庭をつくることも、リフォームすることも、最終的には「どう暮らしたいか」という話につながる。

だから、グリーン雑貨店に集まる人たちは、単なる雑貨購入者ではない。暮らしに関心のある人たちであり、自分の生活空間をよくしたい人たちである。

もう一つ、植物そのものが持つ感覚的な力もある。雪に囲まれた北国の店舗でも、店内に入れば緑あふれる空間が広がっている。冬の只中に、春や夏を先取りしたような景色がある。このギャップが、人を「また来たい」と思わせる仕掛けになる。

住宅営業として出会うのではなく、暮らしの延長で出会う。この順番が、とても大事なのだ。

事例は、すでに出ている

これは、机上の空論ではない。

山形県の工務店が運営するグリーン雑貨店では、グリーン雑貨店を起点に、住宅、ガーデン、リフォーム、採用へと接点が広がっていた。

来店者の中には、何度も通う人がいる。植物を買いに来た人が、庭の相談をする。庭の相談から、住宅やリフォームの話につながる。店の雰囲気を見て、会社に興味を持つ人もいる。

福島県の建築会社が運営する店舗でも、同じように、グリーン雑貨店が地域との接点になっている。年間約5,000名の来店があり、外構への相談も生まれている。

もちろん、会社によって形は違う。地域も違う。客層も違う。店舗の世界観も違う。それでも共通しているのは、住宅会社が「売る前に、地域と関係をつくっている」という点である。

住宅会社は、もっと早く出会わなければならない

これからの住宅会社は、「家を建てたい」と思った瞬間に初めて見つけてもらうだけでは遅いのかもしれない。

その時点では、もう比較が始まっている。価格で比較される。性能で比較される。間取りで比較される。キャンペーンで比較される。

もちろん、それらも大事だ。しかし、価値観で選ばれる会社になるには、もっと前から出会っていなければならない。

まだ家を建てる予定がない時。まだリフォームを考えていない時。ただ植物を買いに来ただけの時。ただイベントに参加しただけの時。

その段階から、地域の人と接点を持つ。

それは、短期的な反響を取る施策ではない。すぐに契約になるものでもない。でも、数年後の信頼を育てる投資になる。

未来のお客様と、未来の売上を、今から育てる取り組み。それが、ビレッジ戦略なのだと思う。

「売る工務店」から、「知っている工務店」へ

住宅業界は、これからさらに難しくなる。価格は上がる。金利も上がる。買える人は絞られる。比較競争は激しくなる。

その中で、地域工務店が生き残るためには、ただ広告を増やすだけでは足りない。必要なのは、地域の人から「あの会社、知っている」と思われることだ。

そして、できればその先に、

「あの会社、なんか好き」 「あの人たちなら相談しやすい」 「あそこなら、自分たちらしい暮らしを分かってくれそう」

という感覚を育てることだ。これをわたしは「善い認知」と呼んでいる。
住宅は、知らない人から買うには高すぎる。だからこそ、知っている人から買いたくなる。

ビレッジ戦略とは、工務店が「売る相手」を探すための戦略ではない。地域の人にとっての「知っている工務店」になるための戦略である。

そしてこれからの時代、その差はますます大きくなっていくはずだ。


参考資料・出典
日本銀行「企業物価指数(2026年5月速報)」  https://www.boj.or.jp/statistics/pi/cgpi_release/cgpi2605.pdf
住宅金融支援機構「金利情報」 https://www.jhf.go.jp/kinri/index.html
国土交通省「建設工事費デフレーター」 https://www.mlit.go.jp/statistics/details/t-other-2_tk_000362.html


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真崎 健(まさき たけし)
株式会社エスティナ/株式会社Birth&Rebirth
代表取締役
ビレッジ戦略提唱者