第17回 【各企業のビレッジ戦略】 老舗工務店は、なぜ植物を売り始めたのか—創業110年超・多角化経営に見る、ビレッジ戦略の現在地

愛知県に、1913年創業の工務店がある。
新築、リフォーム、外構。110年以上にわたって、地域の住まいを手がけてきた会社だ。
長く続く住宅会社には、共通していることがある。時代が変わっても、同じ場所に立ち続けていること。そして、同じことだけを続けているわけではないことだ。
住宅のつくり方も、集客の方法も、地域との関係の持ち方も、時代とともに変わる。老舗であり続けるためには、変わらないものを守りながら、変えるべきものを変えていく必要がある。
この会社もまた、変化を重ねてきた。
新築だけに依存せず、リフォーム、外構、地域接点を重ねながら、住まいに関わる事業領域を広げてきた。住宅業界の中では比較的大きな多角化経営を進めてきた工務店だ。
その敷地の一角に、2022年、グリーン雑貨店が生まれた。

モデルルームの隣に、新しいグリーン雑貨店。同じ敷地に、大きなガーデンスペース(公園のような空間)を備えている
これは、単なる新規事業ではない。そして、花屋への転業でもない。
110年以上、地域の住まいに関わってきた会社が、これからも地域の人に選ばれ続けるために、新しい入口を持ち始めた。ビレッジ戦略の現在地である。
一度、成果は出ていた
2023年、外部から視察が訪れるほどの成果を出していた。
グリーン雑貨店のオープン半年で、来店客から新築受注が生まれた。新規に立ち上げた外構事業部では、他社の新築外構やガーデンリノベーションも含め、年商1億円の外構売上を実現した。自社新築への外構装着率も、50%から100%へと引き上げた。
グリーン雑貨店が住宅事業の入口になる——その可能性を、数字として示した時期だった。
しかし、ここに落とし穴があった。
成果を生み出していたのは、特定の担当者の力に負うところが大きかった。施策の判断も、顧客との関係づくりも、ガーデン案件への橋渡しも、属人的な動きの上に成り立っていた。
体制が変わったとき、同じ成果を出し続けることが難しくなった。
仕組みとして再現できる状態には、まだなっていなかった。
ビレッジ戦略が難しいのは、ここだ
グリーン雑貨店の取り組みが住宅事業に波及するまでには、いくつかの条件がある。
ショップに人が来ること。その人たちと関係を積み重ねること。そして、その関係がガーデンや外構、住宅の相談へとつながる仕組みが、店舗の中に埋め込まれていること。
この最後の「仕組み」が、最も難しい。
人が変わっても、季節が変わっても、施策の質が落ちないこと。来店した人が次に来る理由をつくること。ガーデンや外構の担当者との連携が、属人的な関係ではなく、運営の中に組み込まれていること。
これが整っていないと、成果は再現されない。
そして今、再び動き始めている
体制が変わり、ショップの運営を担う現場スタッフが軸を持ち始めた。
ミモザフェアを機にInstagram・LINEの発信を本格化。SNS広告が売上に貢献し始め、マルシェイベントとの連動で来場者が広がった。母の日にはDIY×ショップのワークショップを組み合わせ、売上がさらに伸びた。ガーデンのトスアップも生まれ始めている。
企画が企画を呼ぶ流れが、ゆっくりと戻ってきた。

数字そのものより重要なのは、伸び方だ。売上が一度跳ねたのではない。施策を重ねるたびに、売上の段が一つずつ上がっている。
地域の人が、再び集まる場になってきた

マルシェの日、店の前に人が集まった。
植物を見に来た人。雑貨を探しに来た人。ふらっと立ち寄った人。今日すぐ家の相談をするわけではない人たちが、この場所に来ている。
それが、ビレッジ戦略の狙いだ。
住宅展示会や完成見学会には、家を考えている人しか来ない。でも、グリーン雑貨店には、まだ家づくりを考えていない人も来る。この「まだ顧客ではない人」と、日常の中で自然につながれることが、住宅会社にとって大きい。
来店者の中心は、暮らしへの関心が高い女性層である。マーケティング上でいうF1・F2層だ。住宅購入や建て替え、外構・リフォームの意思決定にも深く関わる層である。
まとめ
老舗工務店が、植物を売り始めた。
それは、物販への転業ではない。 そして、思いつきの新規事業でもない。
110年以上、地域の住まいに向き合ってきた会社が、これからも地域の人に選ばれ続けるために、新しい接点を育てている。
老舗が強いのは、古いからではない。 変わらない信頼の上に、新しい入口を増やしているからだ。
ただし、入口をつくるだけでは足りない。
来店した人と関係をつくる。 その関係を、ガーデンや外構の相談につなげる。 さらに、住宅事業へ波及する流れを、担当者の個人技ではなく、運営の中に組み込んでいく。
ここに、ビレッジ戦略の難しさがある。
そして、ここにこそ、ビレッジ戦略の価値がある。
植物を売ることが目的なのではない。植物をきっかけに、地域との関係を積み上げることが目的なのだ。
その積み重ねの先に、外構、リフォーム、そして住宅事業への波及が生まれていく。
この店舗の取り組みを実際に見ていただける愛知県のビレッジ視察セミナーを、11月に開催予定です。詳細は追ってご案内いたします。
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真崎 健(まさき たけし)
株式会社エスティナ/株式会社Birth&Rebirth
代表取締役
ビレッジ戦略提唱者