第18回 【各企業のビレッジ戦略】 なぜ、植物の店が”会社を変える力”になるのか ——ビレッジ戦略を支える「ダイナミック・ケイパビリティ」と「構造的空隙」の理論

東北地方で、住宅・リフォーム・外構を手がける工務店がある。
地域の住まいに関わりながら、近年は庭づくりを軸にした事業展開にも力を入れてきた会社だ。
この工務店が運営するグリーン雑貨店では、ショップを起点に新築2件、お庭工事12件の成約が生まれている。外構事業の売上は、ゼロから4,600万円へ伸びた。
さらに、庭の相談が店舗リフォームの相談になり、車庫の相談が別の相談へとつながっていく。ひとつの相談が、別の相談を連れてくる現象も起きている。
一見すると、「植物の店」と「住宅受注」は遠いように見える。
しかし、ここで起きていることを丁寧に見ると、2つの変化が見えてくる。
ひとつは、会社自身が変わったこと。 もうひとつは、これまで出会えていなかった客層とつながったことだ。
この2つを説明するために、今回は経営理論を少しだけ借りる。
ひとつは、ダイナミック・ケイパビリティ。 もうひとつは、構造的空隙。

難しい言葉だが、できるだけ簡単に言えば、前者は「会社を変える力」、後者は「つながっていない人たちをつなぐ力」だと考えられる。
変化に気づき、動き、会社の形を変える
経営学では、こうした力を「ダイナミック・ケイパビリティ」と呼ぶ。提唱者のデイビッド・ティースらは、企業が変化に対応する力を重視してきた。
難しく聞こえるが、この記事では次の3つで捉えたい。
変化に気づく。 チャンスをつかむ。 会社の仕組みを組み替える。
この工務店の取り組みを振り返ると、まず住宅市場の変化に向き合ったことが見えてくる。新築市場が縮小し、性能や価格だけでは選ばれにくくなっている。広告で見込み客を集めても、相見積もりになりやすい。そのまま従来型の営業だけに頼るのではなく、別の入口をつくる必要があった。
そこで、いきなり住宅を売るのではなく、グリーン雑貨店という日常の接点をつくった。植物を買う。庭を眺める。スタッフと話す。何度も訪れる。
そうした日常の接点が、少しずつ会社への親近感や信頼に変わっていく。
そして、その接点を庭・外構・新築・リフォームへとつなげる事業構造へと組み替えていった。
つまりこの工務店は、単に「店を出した」のではない。 会社の入口を変えたのだと考えられる。
数字に表れた、入口の変化
ショップ起点で、新築2件、お庭工事12件の成約が生まれた。外構事業の売上は、初年度 ゼロから4,600万円へ伸びている。
社長自身も、この動きを経営の意思決定として位置づけ始めている。属人的な現場の努力にとどまらず、庭・外構への投資を事業計画に組み込む段階に入ったことは、ダイナミック・ケイパビリティの「組み替える力」が経営レベルまで及んでいる例として読むことができる。
ここで重要なのは、単に反響数が増えたことではない。反響の質が変わったことだ。以前は、広告やフリーペーパーをきっかけにした反響が中心だった。その場合、顧客は複数社を比較していることが多く、相見積もりになりやすい。

しかし、ショップ経由の相談は違う。すでに会社の世界観に触れている。スタッフと会話している。店の空気感を知っている。「この会社、なんとなく好きだな」という感情が、相談の前段階にすでに生まれている。
だから、価格だけの比較ではなく、「ここにお願いしたい」という相談になりやすい——これが、グリーン雑貨店を入口にする意味だと考えられる。
つながっていなかった人たちをつなぐ
もうひとつの理論が、構造的空隙(こうぞうてきくうげき)だ。
社会学者のロナルド・バートが提唱した、社会ネットワーク理論の考え方である。ざっくり言えば、本来つながっていない人や情報の間にある「すき間」のことだ。そのすき間に橋を架けると、新しい情報や相談が流れ始める。
つまり、価値は「人が多い場所」だけで生まれるのではなく、「まだつながっていない人同士が出会う場所」でも生まれる。
たとえば、八百屋さんが料理教室を始めたとする。
それまで、八百屋は野菜を買う場所だった。しかし料理教室を始めると、野菜を買う人と、料理を学びたい人がつながる。そこから、調理器具、器、食卓、家族の時間といった話に広がっていくかもしれない。
八百屋は、野菜を売る場所から、暮らしの相談が生まれる場所に変わる。
この工務店で起きたことも、これに近いと考えられる。
植物を買いに来る人。庭を整えたい人。暮らしをよくしたい人。住宅やリフォームを相談したい人。
これらの人たちは、本来は別々の入口から入ってくる。しかし、グリーン雑貨店という場があることで、「植物・ガーデニングに関心がある層」と「住宅・リフォームを検討している層」がつながった。
植物の店が、暮らしの相談窓口になったのだと言える。
小さな相談が、大きな相談へ連鎖する
実際に、この工務店では相談の連鎖が起きている。
庭の相談から、店舗リフォームへ。車庫の相談から、別のリフォームへ。

最初の入口は、小さな相談かもしれない。植物を見に来た。庭のことを少し聞いてみた。車庫のことで相談した。
しかし、そこに信頼関係があれば、相談は暮らし全体へ広がっていく。
ビレッジ戦略の本質は、単発の反響獲得ではない。相談が連鎖する関係をつくることにあると考えられる。
会社を変える力と、客層をつなぐ力
前者は、会社がどう変わったか。後者は、誰と誰がつながったか。
ここまでを整理すると、この工務店の成果は2つの理論で説明できる。
ダイナミック・ケイパビリティは、会社の中で起きた変化を説明する。住宅営業の限界に気づき、グリーン雑貨店という新しい接点をつくり、庭・外構・新築・リフォームが連携する事業構造へ変えていった。
構造的空隙は、顧客との関係で起きた変化を説明する。これまで別々だった「植物・暮らしに関心がある人」と「住まいを整えたい人」を、ショップという場がつないだ。
この2つが重なることで、植物の店が住宅事業につながる理由が見えてくると考えられる。
グリーン雑貨店は、物販の店ではない
この事例から見えてくるのは、グリーン雑貨店は単なる物販の店ではないということだ。
植物を売る場所ではなく、地域と出会う場所。 庭の相談が生まれる場所。 暮らしの価値観が伝わる場所。 未来の住宅相談が育つ場所。
住宅会社にとって本当に大事なのは、商談になってから選ばれることではない。商談になる前から、地域の中で「あの会社、なんとなく好きだな」と思われていることだ。

その状態をつくるための入口が、グリーン雑貨店であり、ビレッジ戦略なのだと考えられる。
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第17回:【各企業のビレッジ戦略】 老舗工務店は、なぜ植物を売り始めたのか—創業110年超・多角化経営に見る、ビレッジ戦略の現在地
真崎 健(まさき たけし)
株式会社エスティナ/株式会社Birth&Rebirth
代表取締役
ビレッジ戦略提唱者