第19回 新築の次に、工務店は何をつくるのか――富山県の工務店で見た、建築の力の新しい使い道

10月6日、全国から工務店・住宅会社の経営者が、富山県のある工務店に集まった。
庭を見に来た。グリーン雑貨店を見に来た。

けれど、話をしているうちに、みんなが考えていたことはもう少し大きかった。
「新築が減っていく中で、工務店は次に何をやればいいのか」
この記事は、その問いへの、ひとつの振り返りである。視察に参加された方は、社内で共有するときに使ってほしい。
1. 参加者が本当に聞きたかったこと
視察の最後に、参加された方々に一言ずつ話してもらった。
新築が落ち込んできて、どうしようかと考えている。リノベーションの割合を増やさざるを得ない。分譲地の中にサウナがあったら面白いと、何年か前から考えていた。これから宿泊の事業を考えている。
庭やグリーンの話を聞きに来たはずの会の最後に出てきたのは、どれも「新築の次」の話だった。
私は、これは自然なことだと思う。今回訪ねた工務店は、グリーン雑貨店のほかに、分譲地、古民家を再生した宿、サウナの宿を持っている。参加者はその一日の中で、「工務店が、家を建てる以外の事業を持っている姿」を見て回ったことになる。
2. 外構は、ひとつの答えになる。ただし
この工務店の出発点は、庭と外構だった。
立ち上げを担ったHさんによれば、社長は以前から「庭のある家をつくりたい」と考えていた。しかし、住宅本体の予算が優先され、外構は最後に残った金額になりやすい。「あと50万円で、いい感じにしてほしい」という発注になってしまう。
良い庭をつくるには、自分たちが提案し、予算を取れる状態にする必要がある。そこで外構を自社の事業にした。ちょうどモデルハウスを建てる予定の土地があり、「モデルハウスだけで使うのはもったいない」と、庭と外構の拠点に店を組み合わせた。
8年たった今、外構事業の売上は、当初の4,000万円台から、多い年で1億円を超える規模に育った(約3.6倍)。他のハウスメーカーや工務店で家を建てた人の庭を手がける仕事が、件数の大半を占めるまでになっている。営業は1名、設計の専任はいない。図面は8年間で300件を超えて支援本部に依頼してきた。
立派な事業だと思う。
ただ、ここは正直に書いておきたい。新築の会社が外構を始めると、多くの場合、
新築が増える → 外構も増える
という関係から、完全には自由になれない。他社住宅の外構を取れるところまで育てても、地域の新築そのものが減れば、外構の需要も細る。実際、この工務店の外構売上も、最大期から最新期にかけては下がっている。理由は資料からは分からないが、右肩上がりの話ではない。
新築市場が縮んでいくなら、「外構を頑張れば本業全体が救われる」という会社は、それほど多くないだろう。
では、工務店には何が残るのか。
3. 工務店には、すでに「次の事業をつくる力」がある
富山を一日歩いて、私に見えてきた答えはこうだ。
建築する力そのものが残る。
工務店を「住宅を売る会社」と考えると、新築が減れば、縮む市場にいる会社になる。
けれど見方を変えると、工務店はこれだけの力を、地域の中に持っている。
- 土地を読む
- 建物を設計する
- 古い建物を直す
- 職人を束ねる
- 庭をつくる
- 地域の素材を知っている
- できあがった空間の魅力を伝える
この工務店で起きていることは、この力を「家を建てたい人」のためだけに使うのをやめた、と読むことができる。
視察の順路が、それをそのまま示していた。
グリーン雑貨店から始まり、「庭と小屋と暮らし」をコンセプトにした分譲地へ。そこから、築130年の古民家を再生した一棟貸しの宿へ。最後に、サウナのある一棟貸しの宿へ。
Hさんの話では、グリーン雑貨店は、社長が初めて本格的に取り組んだ多角化の事業だった。それがうまく回ったことが、宿泊やサウナ、地域のツアーへと事業が広がるきっかけになったという。

ただ、大切なのは、この工務店と同じことをすることではない。古民家の宿をつくる必要も、サウナをつくる必要もない。
問いはもっと単純だ。
自社がすでに持っている建築の力を、住宅以外のどんな市場に使えるか。
1節で紹介した参加者の言葉も、突き詰めればこの問いだったと思う。
4. 「建てて、引き渡す」とは別の経済
ここで、工務店にとっての「建築」の意味が変わる。
これまでは、こうだった。
建てる → 引き渡す → 売上になる
宿泊施設になると、流れが変わる。
建てる・再生する → 自分たちで運営する → 地域の外から人が来る → 売上が続けて生まれる → その場所自体の価値が上がる

建物は、引き渡したら終わりの「商品」ではなく、収益を生み続ける「事業の資産」になる。稼働する施設まで育てば、将来的には、その収益性を評価した第三者が取得するという出口も考えられる。これは、今回の工務店で実際に売却があった、という意味ではない。考え方としての話だ。
古い家も、空き地も、使われなくなったモデルハウスも、建築の力を通すと、地域の外から人を呼ぶ場所に変わりうる。
ひとつ、誤解のないように書いておく。これは「民泊をやりましょう」という話ではない。 宿泊は答えではなく、建築の力を住宅以外に使った一例にすぎない。
当日、私は参加者にこう話した。グリーンでなくてもいい。かき氷でも、野菜でも、お香でも、本屋でも、レコードでも、酒蔵でもいい。文化が根っこにあるものに取り組むと、人は集まる。植物は、たまたま住宅と相性が良かっただけだと思っている。
5. 次の事業を支える「関係」
では、宿やサウナを建てれば、それで次の事業になるのか。
私は、ここにもう一つ仮説を持っている。こうした新しい事業に挑戦できる土台の一つが、グリーン雑貨店が8年間積み上げてきた地域との関係なのではないか。
これはまだ数字では証明できていない。ただ、店のデータを見ると、その「関係」そのものは確かに存在していた。
この店では、レジのデータと会員データを記録し続けている。直近1年(2025年10月〜2026年9月)を見ると、
- 会員として来店が確認できた人:約1,300人
- イベントのない普通の日にも3回以上来た人:約70人
- 91日以上来なかったのに、また戻ってきた人:約160人
繰り返し来ている人と、一度離れても戻ってきた人を合わせると、会員の約7人に1人になる。
関係は、一直線に深まるわけではない。離れて、また戻ってくる。母の日に来て、しばらく来なくなり、正月のアレンジでまた来る。そういう行き来が、データにそのまま表れていた。

Hさんは、こんな話もしてくれた。開店して間もない頃、たまたま立ち寄った県外の会社の人と、少し話をした。その人が数年後、富山でプロジェクトを立ち上げるとき、店を覚えていて仕事を依頼してくれたという。
狙って起こせることではない。ただ、地域の人や外から来た人と出会う回数が多いほど、こうした出来事に出会う確率は上がる。店は、その回数を毎日つくっている。
そして、その関係をつくったのは、結局のところ人だ。私は当日、「人が一番の差別化」と話した。この店も、Hさんがいなければ別の店になっていたはずだ。
6. 「正解以外」を、事業にどう織り込むか
視察の最後に、私たちは支援する側として、この一日をこう総括した。

大手は、正解を出してくる。AIも、最大公約数としての正解を、ボタン一つで返すようになった。
性能、設計力、施工品質、コストパフォーマンス。どれも大切だが、それだけでは、地域の工務店同士の違いは見えにくくなっている。若い営業担当者に「お客様が御社を選ぶ理由は何か」と聞くと、どの会社でもほとんど同じ答えが返ってくる。
だからこれからは、正解ではないものが大切になるのではないか。
その土地の文化。社長の偏愛。地域の素材。植物。食。本。音楽。
一見すると、住宅とは関係がない。けれど、それが会社に人間味を与え、地域との接点をつくり、「この会社が好き」という理由になっていく。
今回見た庭、店、宿、サウナは、それぞれ違う事業だった。それでも、一つの会社がやっていることに違和感がなかった。Hさんも、会社としての考え方がどの事業にも通っていて、顧客から見て矛盾がないことを、この会社の強みだと話していた。
事業が多いのではない。世界観が一つなのだ。私はそこに、この会社の強さを感じた。
7. 200世帯に1件を奪い合うか、200世帯の地域を面白くするか
最後に、ひとつ数字を置いておきたい。
富山県では毎年、おおむね200世帯に1戸の割合で注文住宅(持家)が建っている。全国では約300世帯に1戸だ。国の建築着工統計と、住民基本台帳の世帯数から計算できる。

多くの住宅会社は、その1件と、住宅のニーズが生まれてから出会う。検索や展示場や問い合わせで初めて出会い、そのときには相手はもう何社も比べている。
今回の店は、直近1年で約1,300人と、家づくりとは関係のない日常の中で接点を持っていた。200世帯に1戸という数字と、単純に比べられるものではない。会員と世帯は同じではないし、会員がこの工務店で家を建てる保証もない。これは受注予測ではなく、地域の中ですでに出会っている人の「規模感」だ。
それでも、問いははっきりする。
200世帯に1件の新築を、奪い合う会社になるのか。
200世帯が暮らしている地域そのものを、面白くする会社になるのか。
2012年に始めたVillage戦略は、住宅の受注を増やすことと、地域との関係を増やすことを目的にしていた。今回の視察の最後に、私はその先をこう示した。
住宅会社の価値を上げる。
↓
地域の価値を上げる。

これは理念の話ではなく、新築が減っていく時代の、工務店の事業の話だと私は考えている。
8. うまくいった話だけではない
もちろん、うまくいった話だけではない。最初は予算のコントロールができず、失敗を重ねて今のやり方にたどり着いている。店が本業の仕事を生んでいるかも、相談のきっかけを記録する仕組みがまだないため、数字では示せない。言えるのは、店と外構が「同時に伸びてきた」ところまでだ。
9. 自社への問い
- うちの建築の力は、「家を建てたい人」以外の誰のために使えるか。
- 地域に、建築の力で価値に変えられる古い建物や空き地はあるか。
- 家を建てる前の地域との関係を、何で数えているか。
この3つにすぐ答えられる会社は、まだそれほど多くないと思う。私たち自身も、答えを持っているわけではない。
だからVillage戦略の視察では、成功事例を見に行くだけではなく、現地を歩き、経営者の話を聞き、「自社だったら何ができるか」を参加者同士で考えることを大切にしている。
10. 次は愛知で、一緒に考える
今回、富山で見たのは、庭から始まり、店、宿、サウナへと広がっていった工務店だった。
次回、11月19日に訪ねるのは、愛知県の創業110年を超える工務店だ。使われていなかった倉庫を、年間で多くの人が訪れる地域の拠点に変え、そこからランドスケープの仕事や、行政・企業との新しい連携が生まれている。ここにも、建築の力を住宅以外に使った姿がある。
私が見たいのは、完成した場所そのものではない。
- なぜ、住宅会社がそこへ踏み出したのか
- 社内で、誰が動いたのか
- 何につまずいたのか
- 本業との関係を、どう考えているのか
そして、参加される皆さんと、「自社の建築の力を、何に使えるのか」「最初の一歩を、何から始めるのか」まで考えたいと思っている。見学して終わるのではなく、自社に持ち帰る仮説を一つつくる。そこまでが、この視察の目的だ。
新築が減っていることに、危機感はある。リフォームだけでもない気がする。でも、次に何をすればいいのかは、まだ見えていない。そんな工務店の経営者に、ぜひ現地で一緒に考えてほしい。
Village戦略視察セミナー in 愛知県
2026年11月19日(木)13:00〜17:00
参加費:10,000円/社(税別)
視察に参加された方へ
当日は、遠方からのご参加、本当にありがとうございました。
社内で共有するときは、次の3行を使ってください。
- 外構は大事な答えだが、新築と連動する。工務店に残るのは「建築する力」そのもの。
- その力を家以外に使うと、建物は引き渡して終わる商品から、収益を生み続ける事業の資産に変わる。
- その挑戦の土台の一つと考えられるのが、店が8年かけて積み上げた「離れて、また戻ってくる」地域との関係。
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第4回:会社に、文化が宿るとき――4つの資本が循環する話
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第16回:だれでもわかる住宅会社向けービレッジ戦略(実質第0回)
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第18回:第18回 【各企業のビレッジ戦略】 なぜ、植物の店が”会社を変える力”になるのか ——ビレッジ戦略を支える「ダイナミック・ケイパビリティ」と「構造的空隙」の理論
出典
- 持家着工戸数:国土交通省「建築着工統計調査報告(令和7年計)」都道府県別表(2025年1〜12月)
- 世帯数:総務省「住民基本台帳に基づく人口・世帯数」(2025年1月1日現在)
- 会員・来店データ:GREEN PRODUCE COMPASS(スマレジ・会員データ、2025年10月1日〜2026年9月30日、会員IDが付いた会計から集計)
- 外構事業の推移・図面依頼件数:2026年10月6日 視察セミナー当日配布資料
- 立ち上げの経緯・参加者の発言・総括:2026年10月6日 視察セミナーでの発言
真崎 健(まさき たけし)
株式会社エスティナ/株式会社Birth&Rebirth
代表取締役
ビレッジ戦略提唱者